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異なる温度生息環境に共存・生存しているキューバのアノールトカゲ3種を用いて、温度変化に応じて発現を変化させる遺伝子群を検出。 

概要  

異なる温度環境で共存・生息しているキューバのアノールトカゲ3種を用いて、温度変化に応じて発現を変化させる遺伝子群を検出し、概日リズムと代謝の両方に関わる遺伝子が低温環境から高温環境への適応に重要であることを示唆

温度環境を変えて共存するアノールトカゲ  

 トカゲなどの外温性脊椎動物は、高温側への適応進化に制限があるといわれていおり、温暖化によって多くの種が絶滅すると予測されています。低温環境から高温環境へ適応進化したトカゲを対象とすることで、どのような機構が、高温側への適応を可能にするのか、あるいは制限するのかを明らかにすることができると考えられます。
 アノールトカゲは、カリブ海の島々に約120種が生息し、キューバでは65種が生息しています。アノールトカゲは幹・枝先・樹冠・草地などの生息地構造に異なる行動・形態(エコモルフ)を進化させて多様化するという適応放散進化のモデル生物として注目されてきました(アノールトカゲのエコモルフ)。また、同じエコモルフに属する種の間では、異なる温度環境へ適応分化することで、さらに多様化が促進されていることが明らかになっています。キューバでは、幹から地面という同じ樹の部位に生息するアノールトカゲにおいて、A. allogus(アノリス・アルロガス)は森林内、A. homolechis(アノリス・ホモレキス)は林縁部、A. sagrei(ブラウンアノール)は開放環境に生息することで共存しています(図1)(キューバに生息するアノールトカゲ)。私たちの研究では、キューバでは、森林内部の低温環境から高温環境へ進化したと推定されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1. 異なる温度環境に生息する3種のアノールトカゲ

 

低温(26℃)と高温状態(33℃)で発現が変動する遺伝子群を検出  

本研究では、これら3種のアノールトカゲを用いて、低温(26℃)と高温状態(33℃)で、遺伝子発現量(遺伝子によって作られるRNAの量)が変化する遺伝子を、RNA-seq (次世代シークエンサーを用いて発現している遺伝子を網羅的に解析する手法)を用いて解析しました。
 温度によって発現量が変化する遺伝子はA. allogusで 400, A. homolechisで 816, A. sagreiで 781 でした。3種で共通して発現量が変化する遺伝子は62だけで、3種は温度変化に対して異なる遺伝的反応をすることが示されました
 発現量が温度で変化する遺伝子群の中に、同じ機能をもつ特徴的な遺伝子群があるかどうかを検出したところ、アノリス・ホモレキスでは、リボゾームタンパクの合成に関わる遺伝子群が検出されました。リボゾームタンパクは、DNAからタンパク質が作られる時に必要な基本的なタンパク質です。A. homolechisは、日陰と日光の当たる場所の両方を行き来しており、日光にさらされた後の壊れたタンパク質を修復する能力がすぐれていると考えられます。また、温度で発現量変化する遺伝子の中で3種に共通にみられたものとして、概日リズムに関する遺伝子群が検出されました。特に、核内受容体Rev-erbαをコードするNr1d1 遺伝子は、低温環境に生息するA. allogusと高温環境に生息するA. sagreiで異なる発現パターンを示しました。この遺伝子は、概日リズムと代謝の両方に影響することが知られ、マウスの研究では、朝方の低温耐性に影響していることが示されています。このことは、温度差の激しい高温開放環境の適応には概日リズムが重要で、活動時間帯の変化とそれに伴う温度耐性の変化を引き起こす遺伝子によって、低温環境から開放高温環境への進化が可能になったのかもしれません。 

 

この研究は以下からみられます。  

Akashi, H. D., A. Cadiz, S. Shigenobu, T. Makino and M. Kawata (2016) Differentially expressed genes associated with adaptation to different thermal environments in three sympatric Cuban Anolis lizards. Molecular Ecology, [Abstract] 

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