チョウの種多様性は、利用する資源の種類と量で決定される
生物多様性を決定する要因とは
生物の多様性(何種類の生物がどれくらい存在するか)がどのような要因によって決定するのかという問題は、生態学の古くからの中心的課題の一つとして多くの研究が行われてきましたが、近年は、生物多様性の保全の必要性から、さらに多くの注目を集めています。
特に、2001年にハッブル(S. P. Hubble)によって、生物多様性の中立説が出されて以後、2つの理論(中立説とニッチ説)の検証が重要な問題になってきました。中立説によれば、地域内での生物個体のランダムな置き換わりと外からの移出・移入によってある地域の生物多様性は決まるとする予測します。ニッチ説によれば、生物が必要としているニッチ(=生物が必要とする様々な資源や環境)の種類と大きさによって生物多様性は決定されると考えます。これまで、森林群集などいくつかの群集で中立説が有効であるという論文が出されています。一方、近縁な種はそれぞれ異なる資源を利用(ニッチ分割)しているという研究は、古くからあり、ニッチ説を支持する証拠とされてきました。また、近年、生物の種数とその数は、その地域の環境と関係しているという広い地域でのデータから、ニッチ理論を支持する論文も多くだされています。しかし、生物の多様性(生物種とその相対的個体数)が、その生物が利用する資源の相対的な量(相対的なニッチの大きさ)で決まっていること(ニッチ分配説)を野外の大きな範囲で示した研究はこれまでありませんでした。
諸島において、チョウの多様性が、それを利用する食草の多様性によって決まっていることを実証 †
種のチョウがどれくらいの数生息しているのか)の決定要因を調べるために、松島湾松島 群島の浦戸諸島を調査対象とし、食草(チョウの幼虫が食べる植物)の量を精度の高い航 空写真や現地の調査から推定しました。(下図は浦戸諸島の植生)
通常、食草の量は、チョウが必要とするよりも豊 富にあると思われるので、食草のバイオマスとそれを食べるチョウの個体数に関係がある とは必然的に予測することはできません。研究グループの結果は、異なる種の食草のバイ オマス(生物量)の相対的量が、どの種のチョウがどの程度の個体数生息するのかに大き く影響していることを示しました(下図)。この結果は、野外の広い範囲で、食べ物などの相対量 が種の多様性を決定していることを示した初めての研究で、ニッチ分配説を強く支持する 証拠となります。この結果は、生物多様性の決定要因に関する生態学的問題解決に大きく 寄与するだけでなく、生物多様性の保全面にも多くの示唆を与えます。植物に食べ物など を依存する生物種の多様性は、植物の多様性に大きく依存していることを示しています。 また、特定の植物量(バイオマス)の相対的な量増大は、特定の種の植食者を過度に増大 させる結果となり、多様性のもつ安定性を減少させる可能性を示唆しています。
この研究は以下からみれます。 †
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Yamamoto,N., J, Yokoyama and M. Kawata. (2007) Relative resource abundance explains butterfly biodiversity in island communities. Proceeding of National Academy of Science USA, 104:10524-10529 open access