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ヒトゲノム上にコピー数多型砂漠を発見  

ゲノム上で遺伝子コピー数多型が抑制されている領域を発見  

私たちは約2万の遺伝子を持っていますが、遺伝子が増えたり(遺伝子重複)、消失したりすることで、各々の遺伝子の数が個人によって違っていることがあります(コピー数多型)。この遺伝子数の違いは、しばしば、自閉症や知的障害といった病気の原因となることが知られています。

これまでに、コピー数多型のある遺伝子は、ゲノム中に偏って存在している事が報告されていますが、その原因についてはほとんど分かっていませんでした。私たちは、特定のタイプの遺伝子群が周辺に存在する遺伝子のコピー数多型を抑制していることを突き止めました。我々は、脊椎動物の初期進化で起きた全ゲノム重複に由来する遺伝子「オオノログ」に着目し、オオノログとその他の遺伝子のゲノム上の距離を調べました。その結果、オオノログの近くにある遺伝子はコピー数多型がない傾向にあり、逆にオオノログから離れて存在する遺伝子の多くがコピー数多型を示しました(図1)。特に、オオノログが高密度で存在するゲノム領域では、コピー数多型が強く抑制されていました(図2)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1. オオノログまでの距離とコピー数多型を持つ非オオノログの割合の関係 オオノログまでの距離をもとに非オオノログを11のグループに分類し(横軸)、それぞれのグループにおけるコピー数多型を持つ非オオノログの割合(縦軸)を調べた。オオノログとの距離が遠い非オオノログほどコピー数多型を持つ傾向が強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図2.オオノログの密度とコピー数多型の関係(染色体16番の例) オオノログ密度の高いゲノム領域(水色)では、コピー数多型をもつゲノム領域・遺伝子の頻度が低い。



そのような領域は、数億年に渡る脊椎動物の進化過程において遺伝子が数を増やせない遺伝子重複砂漠であることも明らかにしました(図3)。今回の研究成果は、オオノログを含むゲノム領域の重複や消失が非常に有害(致死や病気を引き起こす)であることを示唆しています。このことから、遺伝子重複砂漠の領域内に存在しているコピー数多型は、病気と関係している可能性が高く、その領域のコピー数多型を調べることで、病気に関る遺伝子の効率的な探索が可能になると期待されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3. 遺伝子重複砂漠の形成機構 遺伝子B以外は増えても無害。遺伝子Bは増えることが有害で、重複すると病気や致死を引き起こす。そのため、遺伝子Bの重複遺伝子B’は子孫に伝わらない。遺伝子AとCは単独で増えた場合は無害だが、遺伝子Bの近くに存在するためにBとともに重複されることが多く、遺伝子AやCの重複遺伝子も子孫には伝わりにくい。このような背景から遺伝子Bの周辺では遺伝子が増えにくい遺伝子重複砂漠が形成される。


コピー数多型の多くは無害ですが、オオノログとは対照的に進化過程において重複を何度も繰り返して数を増加させている遺伝子ファミリーが存在します。特に匂いの感知に関る嗅覚受容体遺伝子は、ヒトにおいて数百、マウスでは約千も存在し、脊椎動物において最も大きな遺伝子ファミリーを形成しています。これは嗅覚受容体遺伝子数の増加が生存に有利であったためだと考えられます。この遺伝子群のゲノム上の分布を調べたところ、ほとんどの嗅覚受容体遺伝子がオオノログから離れた領域に存在していました。このことは、ゲノム上のオオノログの位置が、他の遺伝子数の変動に大きく関っていることを示唆しています。この他にも免疫関連遺伝子などコピー数の多い遺伝子群が報告されています。このような遺伝子も嗅覚受容体遺伝子と同様に、オオノログを含まないゲノム領域に多く存在していると考えられます。今回の結果は、コピー数多型がゲノム上のどの領域にあるかでそれが有害かどうかの推定を可能にするのと同時に、遺伝子ファミリー形成のメカニズムやその生物学的意義の解明に向けた研究に繋がると期待されます。 

 

 

遺伝子重複】 一つの遺伝子がコピーされて二つの遺伝子になることを遺伝子重複といい、 重複により生じた遺伝子を重複遺伝子と呼びます。多くの場合、遺伝子の重複は有害でも無害で もありませんが、最適な遺伝子数が厳密に決められた遺伝子においては、遺伝子重複が病気を引 き起こすなどの悪影響を及ぼします。

 

【コピー数多型】 生物集団内における個体間比較において、ゲノム領域のコピー数の違いを コピー数多型と言います。ゲノム領域のコピー数は重複によって増加し、消失によって減少します。 コピー数多型を示すゲノム領域中に遺伝子が含まれる場合、遺伝子の数にも個体差が生まれます。 例えば、ある人が遺伝子Aを1つ持つのに対して、別の人が遺伝子Aを2つ持つ場合、遺伝子Aは コピー数多型があると言えます。数多くのヒトのゲノムを調べた研究から、約30%のヒト遺伝子が コピー数多型を持つことが分かっています。コピー数多型を持つゲノム領域の長さは様々で、長い ゲノム領域のコピー数多型では複数の遺伝子が含まれます。

 

【オオノログ】 長い生物進化過程において、希にゲノム(全遺伝子)が重複する大イベントが起こ ることがあります。これを個別の遺伝子の重複(注1)と区別して全ゲノム重複と呼びます。ヒトを含む 脊椎動物では、約5億年前の初期進化において2度の全ゲノム重複が起きたことが分かっています。全ゲ ノム重複により全ての遺伝子が倍加しますが、生じた2コピーの遺伝子は冗長であるため、多くの場合、 1つが消失します。一方、全ゲノム重複後も消失せずに重複した遺伝子コピーを保持している遺伝子があ り、このような重複遺伝子をオオノログと呼びます(※オオノログは全ゲノム重複による脊椎動物の進化 を提唱された大野乾博士にちなんで名付けられました)。オオノログは最適な遺伝子数が厳密に決められ ている遺伝子群に多く、オオノログの重複や消失が有害な影響を与えるためにコピー数多型(注2)を持 たない傾向にあります。

この研究は以下からみれます。  

  • Makino, T., McLysaght, A. and Kawata, M. (2013) Genome-wide deserts for copy number variation in vertebrates. Nature Communications, 4: 2283. [Article]

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