top of page

ゲノム内の遺伝子重複率と進化可能性の関係  

多様な生息環境に適応可能なゲノム構造の解析  

地球上には300万から500万種の生物が様々な環境に生息し、種によって生息できる環境の幅が異なっています。たとえば、同じネズミ仲間の生物の間でも、ハツカネズミのように熱帯から温帯の世界の広い地域に草地、田畑、河原、土手、荒れ地、砂丘や人家など多様な環境に生息している種がいるのに対し、砂漠という特定の環境にしか生息していないトビネズミなどもいます。
特定の環境にしか生息できない種は、地球温暖化などの環境変化に対して大きな影響を受けるのに対し、多様な環境に生息できる種は、新しい環境や変動する環境にも耐えることが容易だと思われます。しかし、多様な環境に適応できる能力はどういうメカニズムで生まれるのかは、実はほとんど分かっていません。私たちは、あるタイプの遺伝子の数の違いがこの能力差を決めるカギになっている可能性をショウジョウバエの研究で突き止めました。
ショウジョウバエは、以下の図のように種によって、熱帯にのみ生息する種や様々な気候帯に生息する種がいます。 

 

 

 

 

図1. ショウジョウバエ属10種の生息分布 同じショウジョウバエ属の種であっても生息環境は大きく異なる。なお、D. melanogasterは世界中に分布しているため本図には示していない。

ショウジョウバエ11種のゲノム上にある「重複遺伝子」(注1)の数を比べ、それぞれの種の生息環境の多様性が大きいほど重複遺伝子数が多いこと発見しました(図2)。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図2. 生息環境多様性と重複遺伝子の割合の関係 本図の生息環境多様性はケッペンの気候区分を用いて求めた。生息環境多様性が高いほど、様々な環境条件で生息していることを意味している (種名: 図1参照)。生息環境多様性と重複遺伝子の割合には正の相関が観察され、重複遺伝子を多く持つショウジョウバエほど様々な環境に生息している。系統的制約を排除しても重複遺伝子の割合と生息環境多様性には正の相関が見られる。
 

現在、気候変動などによる環境の急変で絶滅する生物が増えることが懸念されており、生物の保全計画の策定は世界的に急務となっています。どのような生物種が環境の変化に弱いのかを事前に知ることは保全の優先順位を考える上で重要ですが、環境変化への強さを測る指標はこれまでなく、実際は不可能でした。今回の研究結果は重複遺伝子数がこの指標に利用できる可能性を示しており、実用化できれば全く新しいアプローチで科学的に生物保全を進められることが期待できます

 

この研究は以下からみれます。  

bottom of page