生息分布の変化と分布を制限する進化的要因
種の境界はどのように決まるか
なぜ種は、分布を拡大せずにある範囲に制限されているのでしょうか?生物は、海、山、川など地理的な障害がなければ、新しい環境に適応することで分布を拡大することが可能だと思われます。しかし、多くの種は分布の外の新しい環境に適応できずに分布が制限されています。
Kirkpatrick and Barton (1997)は、数理モデルをつかって、分布制限要因を解析しました。その結果、下の図のように、新しい環境への適応に関する遺伝的な変異が多く、生物の移動分散が大きい(遺伝子流動が大きい)ほど、あるいは環境勾配が小さい(たとえば温度が南北の分布を制限する要因だとすると、南から北への温度の変化が小さい)ほど生物は適応して分布を拡大できるが、遺伝的変異が小さく、移動分散が大きいほと分布は制限されるという予測になりました。
しかし、Kirkpatrick and Barton (1997)のモデルは、場所や移動分散で遺伝的変異が変化しないという仮定が置かれていました。そこで、Barton (2001)は、遺伝的変異が変化するという仮定でのモデル解析を行ったところ、生物はどのような場合でも、適応進化をして分布を拡大できるという結果になりました。しかし、Barton (2001)のモデルは個体数が無限という仮定が置かれていました。
実際、生物は分布が制限されているわけで、どのような要因が分布を拡大する適応進化を阻害しているのでしょうか?そこで、私達は、個体ベースモデルというシミュレーションを用いて、分布を制限する要因を解析しました。
その結果、これまでの理論予測と異なり、分布の境界(境界周辺での集団)では、個体数(その場所での環境収容力)が小さくなるほど、また、個体の移動分散(遺伝子流動)が大きくなるほど、境界周辺の集団は絶滅をして、適応が阻害されることが明らかになりました。(下図)
これは、個体の移動分散が大きいとき、分布の別の場所から適応していない個体の流入が増えて、周辺の集団は、適応を阻害されるということを示しています(これを移住荷重, migration loadといいます)。この研究は、分布拡大の適応が阻害される新しいメカニズムを示した研究です。
この研究は以下からみれます。 †
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Bridle, J. R., J. Polechova, M. Kawata, R. K. Butlin (2010) Why is adaptation prevented at ecological margins? New insights from individual-based simulations. Ecology Letters 13:485-494
[Abstract]
共同研究者:Jon Bridle (University of Bristol),Roger Butlin (University of Sheffield),Nick Barton, (Univ. of Edingurgh), J. Polechova, ( Institute for Science and Technology)