沖縄での侵略的外来種グリーンアノールの分布拡大の可能性
侵略的外来種であり、外来生物法で特定外来生物に指定されているグリーンアノールは、小笠原諸島において、1960年代に侵入後、急速に数を拡大し、小笠原固有の生物の絶滅など大きな影響を及ぼし、世界自然遺産からの登録取消しも危惧されるほど、大きな問題となっています。一方、沖縄島には、1989年に初めて移入が確認され、那覇近郊では、高密度に生息する場所も確認されています。2015年には新たに座間味島でも定着が確認されていますが、その後、沖縄島では全域に分布の拡大をみせていません。今後、グリーンアノールは分布や個体数を拡大する可能性はあるのか?また、現在分布を制限しているものは何か?を明らかにし、今後の効果的な防除対策をたてることが望まれています。
図1. グリーンアノール。写真は小笠原母島で撮影(撮影:森英章)
本研究では、沖縄島のグリーンアノールの遺伝子型を調べ、移入元を特定すると同時に、移入元の生息環境条件をもとにグリーンアノールの生息に適した環境要因を推定しました。ミトコンドリアDNA配列からの推定から、移入元は北米の東南部の湾岸から内陸に分布している集団と推定されました(図2の青い範囲)。
図2.沖縄のグリーンアノールの移入元推定.左の図は、系統樹で、青い色で示した系統(クレード)の中に、沖縄、小笠原、ハワイなどの侵入先の個体が含まれる。この系統は、アメリカ東南部の沿岸から内陸に分布している集団が起源となっている
このアメリカの移入元の生息環境をもとに、種分布モデル(MaxEnt)を用いて、沖縄島での生息適地を推定した結果、沖縄島全域が、グリーンアノールが生息できる可能性が高いことが示されました(図3)。さらに、沖縄島北部で分布が制限されている要因を推定したところ、夏の高い降水量、低い年平均気温、市街地や開けた環境の少なさなどが関係している可能性が示唆されました。 年平均気温の低さは、沖縄島北部やその他の地域にグリーンアノールが分布できない要因の候補の一つですが、移入元の北米では、グリーンアノールは沖縄島よりも平均気温が低い場所でも生息できています。沖縄島の移入個体は、もともと遺伝的に低温環境に適応できていない個体が侵入したという可能性はありますが、今後の急速な低温環境への適応や温暖化によって制限要因とはならない可能性があります。また、グリーンアノールは森林内部の環境よりも開けた環境や市街地の街路樹などを好むと考えられ、沖縄島北部での森林の減少や開けた環境の増大は、グリーンアノール拡大の危険性を増大させます。
図3.移入元の環境から推定した沖縄でのグリーンアノールの生息可能性
この研究は以下からみられます。 †
Suzuki-Ohno, Y., K. Morita, N. Nagata, H. Mori, S. Abe, T. Makino, and M. Kawata (2017) Factors restricting the range expansion of the invasive green anole Anolis carolinensis on Okinawa Island, Japan. Ecology and Evoluton [Open access]