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トカゲにおいて高温忌避行動と関連する温度感受性センサー 

高温に対する忌避行動と温度感知  

トカゲなどの外温性脊椎動物は、行動的に体温を調節しています。特に、日光浴(バスキング)によって、体温を上昇させます。しかし、森林の中や洞窟などに生息するトカゲは日光浴をしません。(日光浴をする種をheliothermicと呼びます)。日光浴をする種あるいはしない種のどちらも、体温が上昇しすぎると死亡する危険性があります。そのために、これら動物は、高温になったときに忌避行動を示します。トカゲはどのようにして危険な高温を検知するのでしょうか?

温度環境を変えて共存するアノールトカゲ  

アノールトカゲは、カリブ海の島々に約120種が生息し、キューバでは65種が生息しています。アノールトカゲは幹・枝先・樹冠・草地などの生息地構造に異なる行動・形態(エコモルフ)を進化させて多様化するという適応放散進化のモデル生物として注目されてきました(アノールトカゲのエコモルフ)。キューバでは、幹から地面という同じ樹の部位に生息するアノールトカゲにおいて、A. allogus(アノリス・アルロガス)は森林内、A. homolechis(アノリス・ホモレキス)は林縁部、A. sagrei(ブラウンアノール)は開放環境に生息することで共存しており(図1)、私たちのこれまでの研究で、これら3種は異なる温度に対して、遺伝子発現のパターンを違えており、異なる温度に適応していることが示唆されています(アノールトカゲ3種の温度適応)。森林内部に生息するA. allogusは日光浴をしないnon-heliothermicな種で、林縁部に生息すると開放高温環境に生息する種は、日光浴をするheliothermicな種です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1. 異なる温度環境に生息する3種のアノールトカゲ

 

忌避行動を開始する温度  

本研究では、これら3種を使い、実験的に忌避行動を開始する温度(EVM)を調べました。そのために、ホットプレートの上にトカゲをおき、ホットプレートの温度を徐々に上げていきます。ホットプレートから、飛び上がって逃げたときのホットプレートの温度と体温(直腸温)を計りました。その結果、森林に生息し日光浴をしないA. allogusは、日光浴をするA.homolechisやA.sagerよりも低い温度で忌避することがわかりました (図2)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図2. (A)ホットプレートにトカゲを置き、(B)温度を上昇させる. (C)トカゲがホートップレートから逃げたときの直腸とホットプレートの温度. Akashi et al. (2018)

 

温度感受性センサーTRPA1の活性化温度  

生物が温度や化学的・物理的刺激を感受するセンサーとして、TRPチャネルが知られています。TRPチャネルは、細胞膜に存在する受容体で、たとえばヒトでは、TRPチャネルのひとつであるTRPV1は、熱や酸、さらにはトウガラシ成分のカプサイシンに反応します。それに対してTRPA1は、ヒトでは、冷刺激に反応することが知られています。しかし、哺乳類以外、たとえば、爬虫類、両生類は昆虫などでは、TRPA1は熱刺激に反応するといわれています。   そこで、私たちは、3種のトカゲのTRPA1のDNA配列を決定し、実験的に何度の高温でTRPA1が反応するか(活性化温度)を調べました。その結果、忌避行動開始温度と同様に、その結果、森林に生息し日光浴をしないA. allogusのTRPA1は、日光浴をするA.homolechiesやA.sageriのTRPA1よりも低い温度で活性化することがわかりました(図3)。 


 

[富永真琴氏による温度感受性TRPについての解説] 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3. (A)TRPA1チャネル、ある温度になるとチャネルが開き、電流が流れる、(B)アノールトカゲ3種のTRPA1活性化温度. Akashi et al. (2018)


これらのことから、森林内部で生息し、日光浴をしないA. allogusは、体温が高温になりすぎないように、日光浴をする種よりも低い温度を感知し、忌避行動を示し、さらにその感知にはTRPA1チャネルが関与していることが示唆されました。  外温動物であるトカゲ類において外界の温度を感知する仕組みは、生死に直結し、重要な機構であると考えられます。私たちの研究では、キューバでは、森林内部の低温環境から高温環境へ進化したと推定されています。高温環境への進化にともなって、温度感受性センサーがどのように進化してきたのか、今後研究を進めています。 

この研究は以下からみられます。  

Akashi, H. D., S. Saito, A. Cadiz,  T. Makino , M.Tominaga, M. and M. Kawata (2018) Comparisons of behavioral and TRPA1 heat sensitivities in three sympatric Cuban Anolis lizards.  Molecular Ecology, [Abstract] [AnoleAnnals] 

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